月間6億PV! 史上最大の小説投稿サイト「小説家になろう」に注目しよう!


 どもです。風の噂に聞いたところによると、年末のコミケでサークル敷居亭の新刊『敷居亭の混沌』が発売されるそうなので、ちょこっと記事作成を手伝った者として告知&宣伝をしてみようと思います。

http://d.hatena.ne.jp/sikii_j/20111223/p1

 いやあ、敷居さんがスカイプで書けない書けないと泣き言を言っていたときはもうダメかもしれんねと思いましたが、結果としてはいつものように無事印刷にこぎつけた模様。どうして毎回毎回ぎりぎりのスケジュールなのに締め切りに間に合うんだろう。何? 魔法?

 いやたぶん、何か怪しげな邪神あたりに貢物でも捧げているのだろうと思いますが、オカルトの深淵を覗くことはやめておくとして、本題に入りましょう。

 この本でぼくは「「小説家になろう」座談会」という企画に参加させてもらっています。ついでに座談会注釈の大半もぼくが書いているのですが、経緯をご存知ない方はなぜ海燕がこんな座談会に出ているの? ていうかそもそも「小説家になろう」って何? と思われるかもしれません。

 この記事はそういう古い地球人普通の感覚の方に「なろう」を説明するためのものです。以下、久々に長くなりますが、どうぞお読みください。


■そもそも「なろう」って何よ?■

 「なろう」とは何か? この問いに答えるのはある意味で簡単です。即ち、それは小説投稿サイトである、と。

http://syosetu.com/

 ネットでは昔から大小たくさんの小説投稿サイトがあるわけですが、「なろう」が革命的なのはそのシステムが異常によくできていること。トップページをはじめとして、どのページもイラストや動画などはほとんど使用されていないので一見すると非常に地味ですが、しかし、その内実は充実しまくり。

 まず、作品の投稿が非常に簡単です。サインインして会員になる必要こそありますが、いったん会員になってしまえばきわめて気軽に作品を投稿できる。

 そしてもちろん、読者側にまわっても、ごく気楽に作品を読むことができます。PCはもちろん、iPadiPhoneなどでも簡単に読める上、テキストファイルやPDFなどで落とせたりなど、至れり尽くせりとしかいいようがありません。その「かゆいところに手が届く」細やかさは、莫大な読者数と並んで、このサイトの最大の魅力といっていいでしょう。

 まあ、そういうわけで、「なろう」、やばい。超やばい。具体的にいうと「ニコニコ動画」あたりに匹敵するポテンシャルを感じます。

 ぼくがこう書けば何を大げさなと言いたくなる人もいるでしょう。じっさい、いまの「なろう」がそこまでの魅力をを持っているかといえば、答えは「否」になるかもしれません。しかし、その可能性を見るなら、この言葉は決して過言ではありません。

 じっさい、「なろう」が仲間内で話題に上がり始めてからまだ1年も経っていないのに、このサイト内部では様々な事件が起こっています。そのなかには掲載作品の商業化も含まれていますし、いずれ、「なろう」から続々と新人作家がデビューするということになるかもしれません。

 もっとも、「なろう」での作家の最終目標が商業デビューということにはならないでしょう。作家によっては、ウェブ掲載の作品を紙の本に「落とす」ことは、退化とすら感じられるかもしれません。「なろう」はネット創作のフロントラインに存在しているのです。

■「なろう」に投稿してみた。■

 しかし、そうはいっても、ただ読者として眺めているだけでは「なろう」の真の魅力を理解できたとはいえません。やはり「作家」として作品を投稿してみて初めてわかることがいくらでもあるはず。

 そういうわけで、ぼくも「作家」として作品を投稿してみました。その名も『勇者と魔王と聖女はぼくの嫁!』。

http://ncode.syosetu.com/n9823v/

 ……作者の頭の程度がわかるようなタイトルですが、これはぼくなりに「なろうネイティヴ」に合わせたつもりです。「なろうネイティヴ」とは、たしか敷居さん(id:sikii_j)だったかが造った造語で、「なろう」に特有の個性を持った作品のこと。

 そう、「なろう」に掲載されている作品には一定の特色があります。具体的にいうと、異世界転生/召喚ファンタジーが多数を占めることと、願望充足的なテーマが一般的であること。そして、それ以外にもなんともいえない「「なろう」らしさ」というべきものがあるのです。

 そこで、ぼくもその「なろう」性に合わせて作品を書いてみたいのです。で、結果どうなったかというと、レフト前ポテンヒット、というところでしょうか。「なろう」には日間、週間、月間、四半期、累計の五つのランキングがあるのですが、この作品はたしか日間の2位まで行きました。

 それなりの成功といえばいえなくもありませんが、「なろう」の大量の作品のなかに埋もれてしまったという言い方もできます。失敗の理由は色々あるでしょうが、ようは作者に創作の才能がなかったということに尽きるでしょう。涙涙。

 しかし、当然、この投稿によって学んだこともあります。「なろう」はちょろいようで意外とちょろくないということ。ランキングのトップに立てば相当数の読者に読まれるということ。

 じっさい、日間ランキングのトップ5にランクインすると、ユニークアクセスで1万ヒットは軽く行きます。これは特別な数字ではなくごく平均的なヒット数です。何の経験も(そして多くの場合実力も)ない素人の作品が1万人以上に読まれる。これはいままでは考えられなかったことといってもいい。

 そういう意味で、「なろう」はやはり脅威のウェブサイトというしかありません。ちなみに『ぼくの嫁!』は展開が迷走したあげく未完に終わっています。とほほ。

■小説概念の革命。■

 それにしても、「なろう」を読んでいると、ぼくがこれまで考えてきた小説という概念が解体されてゆくのを感じます。「なろう」掲載の作品は、小説としてのクオリティという観点から見ると、ほとんどは稚拙な代物です。

 それはそうでしょう。何ひとつ執筆経験がない素人が、何の文学理論のバックボーンもなしに書いているのですから、そうそう傑作が出てくるはずはありません。

 むろん、無数に作品が投稿されれば、奇跡的に天賦の才能を持って生まれた人の作品は出てきます。しかし、そういう人の作品は「なろう」全体を眺めわたせば「例外」であるに過ぎません。「なろう」投稿作の大半は新人賞に応募すれば一次選考で落とされるような箸にも棒にもかからない作品なのです。

 従来、つまり「なろう」以前はこの種の作品は論外の駄作として処理されることが常識でした。また、書く側もそのレベルを抜けだして商業作家としてデビューすることばかりを考えていた。

 作家久美沙織は、小説新人賞の解説本である『新人賞の取り方教えます!』のなかで、趣味として小説を書く人間はほとんどいないらしい、ということを書いています。しかし、どうやらこれは間違いなのではないか、といまぼくは思います。

 趣味として小説を書く人間がいないのは、ただ彼/彼女が書いた小説を読んでくれるひとがいる「場」が存在しなかったからに過ぎないのだと。つまり、一定数の読者さえいるのなら、趣味として小説を書く人はいくらでもいるということを「なろう」は証明したのです。

 それは従来の小説評価からすれば愚にもつかない凡作であるかもしれません。しかし、従来の小説評価基準にどれほどの意味があるでしょうか? 過去、たとえばケータイ小説は「小説の崩壊」として評価されました。小説が本来あるべき姿からかけ離れた存在だと。

 ですが、ぼくはいま言いたいのです。小説はもっと自由なのだと。文章が下手でも、展開がワンパターンでも、面白いものは面白いのだ、と。

■「なろう」と物語。■

 小説の面白さとは何でしょう? 彫心鏤骨の名文? 緻密に考えられた構成? 好感をもてる登場人物? それらもたしかに小説の魅力であることは間違いありません。しかし、ぼくは思うのです。小説の最大の魅力とは、「読むこと」そのものにあるのではないかと。

 ただ読み進めることそのものの快楽、「なろう」にはその小説のプリミティヴな魅力を思い出させるものがあります。「なろう」はある意味で往古、物語が伝承によって練られていった時代を思い起こさせるものがある。

 その昔、物語とはひとりの占有物ではなく、口から口へと伝わってゆくなかで自在に変化するものでした。「なろう」では一応著作権がありますから、そこまで自由に物語が変貌してゆくさまを見ることはできませんが、しかし、ある作品がべつの作品に影響を与え、その作品がまた次の作品に影響し――と続いてゆく連鎖は、見ていて飽きないものがあります。

 そう、「なろう」には物語の源泉が存在するのです! 物語とは個人の天才を超えた存在です。あるひとりの抜きん出た才能が産み出すのではなく、ひとの心が連鎖しながら少しずつ産み出してゆくものなのです。

 「なろう」を見ていると、かつて、焚き火を囲んで物語に耳を澄ました人びとの姿が見えるような気がします。それから幾千年、本質的なところでは、ぼくたちはまだ何も変わっていないのだと、そう思わせるものがあります……。

 さて、まだまだ「なろう」の魅力を語りつくしたとはいえませんが、さらに詳しいことは前述の同人誌をご覧下さい。敷居さんやペトロニウスさん(id:Gaius_Petronius)やレスター伯(id:pushol_imas)も参加しているので、面白いものに仕上がっていると思います。

 さあ、いまならまだ遅くない。日間2000万PVのモンスターサイト、「小説家になろう」で小説を読もう!