非属の才能。

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

ちはやふる (1) (Be・Loveコミックス)

 どうしても「あの」付きで語られてしまう、あの、末次由紀ちはやふる』1巻が発売されてます(2008年講談社、409円+税、amazonbk1)。

 過去の全作品が絶版回収となってしまいましたので、現在著者の作品で読めるのは、短編集『ハルコイ』(2007年講談社)と、本作のみ。

 わたし、少女マンガをそれほど読んでるわけではないので、著者が現代少女マンガのどのあたりに位置してるのかはよくわかっていません。そして末次由紀作品を読むのは、実は初めてだったのですが、この作品にはずいぶん感心させられました。これはいい。

 そう、これは良い。と、いきなりほかのサイトの文章を引用してしまったが、いや、ほんと、これは良いものです。

 上記引用先の「漫棚通信」を初めとする一部漫画サイトで好評だったから読んでみたのだけれど、なるほど、好評に値する作品だと思う。ちょうど初めて『ヒカルの碁』を読んだときを思い出させるおもしろさ。

 というのも、漫画としてはマイナーな題材を巧みに一級の娯楽作品に仕上げているという共通点があるのだ。その題材とは、競技カルタ。

 物語は、主人公の千早が小学6年生の時点から始まる。あるとき、彼女は福井からやって来た転校生、新(あらた)と出逢ったことから、カルタの世界にはまり込んでいくことになる。

 おとなしく無口で、いじめやからかいの対象にされる新だったが、その実、カルタをやらせればだれにも負けない実力のもち主だったのだ。

 そして、かれに誘われるままカルタに熱中していく千早は、次第にその非凡な才能を開花させていく。

 この作品のおもしろさは、一つには競技カルタという題材の妙がある。ほとんど何も知らない世界について、初心者の主人公とともに学んでいく楽しさ。そして、マイナーな競技ゆえに生じる葛藤を見守るおもしろさ。

 千早が初めて夢中になれたカルタの世界を、彼女が崇拝する美人の姉は「ダサい」とあっさり切って捨てる。そうなのだ、ひとが自分だけの世界をもつということは、ときに多くのひとを敵にまわすことなのだ。

 ここで必要とされているものは、漫画家の山田玲司が「非属の才能」と呼んだものである。価値観の基準を、他者ではなく、自分に置くこと。周囲に流されることなく、流行に媚びることなく、どこまでも自分自身の中心を見つめること。

非属の才能 (光文社新書)

非属の才能 (光文社新書)

 それまで姉を応援することにアイデンティティを見出していた千早は、カルタの魅力と出逢うことで、初めて「自分自身であること」を試される。

 ここには非常に普遍的なテーマがあると思う。単なる趣味の問題ではない。生き方の問題である。ひとに合わせて合理的に生きていくことを選ぶか、それとも、逆風に立ち向かうことになるとしても、自分の信じる道を往くか。

 どちらが正しいともいえない。ただ、千早は、物語の主人公にふさわしく、逆風に抗う道を往くことになるのだろう。自分を曲げることを知らない知らないその姿は凛々しくも美しい。

 そういうわけで、ブレイクの予感を秘めた、期待の新作である。いまのうちに買っておくと、あとで自慢できるかもしれませんぜ。