タバコもまたドラッグ。

こどものためのドラッグ大全 (よりみちパン!セ)

こどものためのドラッグ大全 (よりみちパン!セ)

 「こどものためのドラッグ大全」。ちょっとショッキングなタイトルである。

 しかし、その中身は、決してショックを狙ったものではない。それどころか、これほど「真面目」なドラッグ関連本はめずらしいのではないだろうか。

 「ドラッグは悪魔の薬」「ダメ、ゼッタイ」式のアンチドラッグ本でもないし、そうかといって、「LSDは宇宙への扉をひらく」式の啓蒙本でもない。

 ただクールかつニュートラルにドラッグにかんする知識を並べ立てた上で、ドラッグを使うか使わないか、それは本人の選択だ、と突き放している。

 たぶん、これからドラッグを始めようと思っているひとにとって、これくらい「役に立つ」本はないかもしれない。

 ドラッグを「人間の意識に著しい変容をもたらす薬物」と定義した上で、マリファナ覚醒剤、エクスタシー、LSD、コカイン、ヘロイン、そしてタバコやアルコールにいたるまで、詳細にその「長所」と「短所」を列挙してあるからだ。

 たとえば、覚醒剤はセックスの際に快感を高めるが、幻覚や妄想をひきおこす。エクスタシーは「愛のドラッグ」と呼ばれ官能を高めるが被害妄想をもたらすリスクがある、などなど。

 筋金入りのドラッグマニアからすれば「常識」の知識かもしれないが、門外漢のぼくにとっては興味深い。それにしても、いったい著者は何を考えてこれほど詳しい知識を、よりによって子供に向け流しているのだろうか。

 かれはいう。

 確信をもって予言しておきますが、今後、十年、二十年以内に、日本のドラッグ汚染は限りなく欧米と同じか、下手をするとそれ以上になるでしょう。「麻薬撲滅」は必ず失敗します。マリファナなどは、吸っていることがあたりまえにすぎて、話題にすらならなくなるでしょう。結果として、薬物依存患者は、いまの数十倍になり、これらのひとたちが精神科の門を叩くのは、時間の問題となります。

 そして、それにもかかわらず、国内には薬物依存症治療専門の病棟はほとんどない。患者はさんざん脅されたあげく、「自助グループ」に厄介払いされることになるだろう。それなら、どうすれば良いのか。

 しかし、ドラッグ問題について、良い情報も悪い情報も隠すことなく、また、偽りなく子どもたちに教えることだけが、ドラッグで引き起こされる悲劇を最小限にする、というぼくの考えに揺らぎはない。ドラッグ問題は「嘘も方便」ですますことのできる領域ではない。

 つまり、その信念の結実が本書である、ということになる。

 個人的におもしろかったのは、タバコにかんする記述。

 タバコはいったん吸い始めて一定期間が経過すると、もっとやめるのが困難になるドラッグのひとつだ。禁煙挑戦者の生涯禁煙成功率は、ある統計によればたった五%程度でしかない。この強い精神的依存性は、ニコチンによって引き起こされるものだ。ニコチンはタバコの葉に二パーセントから八パーセントまで含まれているアルカロイドで、猛毒でもあり、六十ミリグラム程度摂取すれば死んでしまう。
 ニコチンに関しては、いまだに多くのひとたちが、「ニコチンの依存性はそれほど強くない」と考えている。なかにはニコチンには、依存性などまったくないと思っているひとさえいる。「タバコくらいいつでもやめられるさ」「彼(彼女)は、タバコさえもやめられない、意思の弱いひとだよ」といった日常会話に、そうした思惑がみてとれる。しかし、今日、ニコチンは、ヘロインやコカインとほぼ同等化、それらをも上回る、強い依存性をもったドラッグであることが、明らかになってきている。

 ヘロインやコカインを上回る依存性をもったドラッグ。そこらの売店で売っているタバコが、見方を変えれば、そうした存在であるという情報にはインパクトがある。

 思わず「ほんとかよ」と思ってしまうのだが、その強さはともかく、タバコに依存性があることはだれでも知っていることだろう。また、それほど依存性が強いにもかかわらず、簡単にタバコをやめられるひとがいる理由も本書にはちゃんと記されている。

 もちろん、ぼくは「だから、タバコをやめるべき」とは思わない。ドラッグとどう付き合っていくか、それは、最終的には、ぼくが押し付けられることではないと思うからだ。

 ただ、こういう視点からタバコやアルコールを見てみると改めて見えてくるものがあることはたしかで、そういう意味では有益な本だった。最近おもしろい本ばかり読めて大変幸せである。