クイックハルト

クイックハルト

 クイックハルト。

 それは遥かな未来、電脳仮想空間に再現された世界で、国家間の扮装を調停するために行われる「死者なき戦争」である。

 超人的な能力と不老不死を併せ持つクイックハルトプレイヤーたちが、国家の利権を賭けて、壮絶な死闘をくりひろげるのだ。

 運命のその日、それまでは平凡な一高校生だった疾風良一は、情報消失事故によって両親を失う。そしてそれをきっかけに、否応なくクイックハルトの世界にまきこまれていくのだった――。

 以上、あらすじ、終わり。遠未来の架空現実世界を舞台にした、SF青春小説である。表紙だけ見るとライトノベルっぽいが、じっさい読んでみると非常にまっとうなSFだった。

 もちろん、SF設定のほかにもアクションとか、サスペンスとか、恋愛とか、青春とか、巨乳とか、巨乳とか、巨乳とか、いろいろな要素が混じっているが、基本的には仮想現実SFの系譜につらなる一作だといっていいと思う。

 このジャンルの様相は、オーストラリアのSF作家グレッグ・イーガンの登場によって一変した印象がある。

 イーガンはそれまでの仮想現実ものであいまいなままのこされていた点を徹底的に洗い出し、極限までかんがえ抜くことで、このジャンルにあらたな地平をひらいた。

 「イーガン以前」と「イーガン以後」では、ジャンルそのものの内実がまるで変わってしまったとすらいえる。

 しかし、この作品はそこまで深く仮想世界のリアリティを追求してはいない。むしろ、遠未来で仮想的に再現された現代社会を舞台にした物語という意味で、上遠野浩平の「ぼくらは虚空に夜を視る」に似ていると思う。

 ただ、この小説では上遠野の作品と違って、なぜわざわざ遠未来に過去の日本を再現しているのかよくわからない。

 より未来の社会も再現されているらしいのだが、物語中には出てこない。したがって、遠未来SFとはいっても、感覚的には現代を舞台にした小説とそれほど違いはない。

 とはいえ、〈昭和日本〉と〈平成日本〉がまったくの別世界としてパラレルに存在するという設定はおもしろいと思う。ここらへんのSF設定が物語の背景にとどまっていて、深く描写されないことはざんねんだ。

 全体として見ると、文章は読みやすいし、世界設定もよく練られているいて、読みやすい作品である。

 主人公たちの知らないところで動いている陰謀の真相が、さいごまで完全にあきらかにならないところは、多少隔靴掻痒の感をのこすものの、まあ、許容範囲内だろう。

 この小説に欠点があるとすれば、どこかの国のサッカーチームとおなじで、決定力に欠けるところだと思う。そつなくまとまりすぎていて、強烈な個性に欠けるのだ。

 似たような設定で、既に前述の上遠野の作品や、山本弘「神は沈黙せず」といった秀作があるだけに、いまひとつ印象が薄いことは否めない。

 贅沢をいうなら、なにかもうひとつセールスポイントが欲しいところだった。やたらに巨乳のヒロインは印象深いんですけどね。